多曽田育男氏の工房。
からくりの要素を取り入れた動きのあるものや、
夢のあるおとぎ話の世界観のものなど、
子どもから大人まで楽しめるおもちゃを
作り続けています。

INTERVIEW

多曽田育男 Ikuo Tasoda
― 工房名の由来を教えてください。
顔に似合わず可愛らしいと言われるんですが、おとぎ話の世界のような、夢のあるものを作りたくて「おとぎ屋」と名付けました。
― おもちゃ職人を志したきっかけはあったのですか?
公務員として就職した先がものすごく忙しくて、心身ともに追い詰められた時期がありました。そんな折、岡山県北部に「現代玩具博物館」というおもちゃの博物館があるのですが、そこの館長の西田さん(故 西田明夫氏)がオートマタ(=からくりおもちゃ)作品を展示していらっしゃって、たまたまそこを訪れて展示品を見学していくうちに、元々好きだったモノづくり熱が再燃して「これしかない」と直感して「作ってみたいです」という話をしたのがきっかけです。基本的な技術を身につけるために長野県の上松技術訓練校というところで1年学びました。
― 岡山から長野に移り住んだわけですね。
そうです。寮生活をしました。学生時代は「勉強ってつまんないな」と思っていましたが、志を同じくした人たちが集まってきているので、その1年間は本当に楽しかったです。大人になってから「勉強したい」と思っていくと勉強ってこんなに楽しいんだって思いました(笑)。仕事辞めた時には、変わり者扱いされていたのですが、似たような境遇の人がいっぱいいて、「いたいた、ここに」と思っていました(笑)。
― 上松を卒業して、すぐにおとぎ屋を立ち上げたのでしょうか。
卒業後にアルバイトなどで資金を貯めながら西田さんのいらっしゃる現代玩具博物館に出入りはしていたのですが、兵庫県の有馬温泉に有馬玩具博物館ができるということで、「工房が空いてるから行ってみる?」というご紹介をいただき、そこから1年半くらはそちらでお世話になりました。その後、西田さんのアシスタントとしての修行時代を経て、結婚を機に岡山に戻りました。
― 西田明夫さんといえば、オートマタの世界では神様ですね。
ええ、すごいご縁でありがたかったです。とてもお忙しい方でしたから、つきっきりで手取り足取り教えていただくというわけにはいかなかったのですが、事あるごとに色々なことを教えていただきました。今の作品づくりにも当時のそういった影響があるようで、その話をすると「あー、なんとなく分かる」という風には言われます。どこか似ている部分があるみたいです。
― 多曽田さんのおもちゃづくりの特徴というと?
そうですね。「オートマタ」というからくりに元々興味があったので、そこまで大掛かりなものじゃないにしても、どこかしら動きを取り入れたものをずっと作ってきています。最近は、そのこだわりから少しずつ離れてきてはいるんですけど、最初の頃は本当にどこかしら動きのあるものばかり作っていました。
― どういう人を対象におもちゃを作っていますか?
元々は自分が遊んで面白いと思ったものを作ってたので、対象年齢的には比較的高めなおもちゃを作ってきたと言えるかもしれません。
― おもちゃ作りについて、心がけていることはありますか?
まず楽しく作るように心がけています。作ったもの全部にそういう気持ちが出てしまうと思っているので。次に仕上げを丁寧に。僕はそんなに手が早い方ではないので、ひとつひとつ丁寧に作るのが僕の持ち味だと思っています。とにかく丁寧に、きれいに仕上げようと思って作っています。
― 今回KitoTEtoに提案していただいているおもちゃ「はぐるまグルグル」についてのこだわりポイントを教えてください。
大小2種類の歯車で構成されています。それを組み合わせて遊ぶことで、「こういう風につなぐとこういう動きになる」とか、「回転数が変わるか」とか、そういうことを直感的に楽しんでもらえたらいいなと思っています。回る時の音や手ごたえも楽しく、色々と感じとってもらえたらなと思っています。
― よく見ると、一般的な機械の歯車とはちょっと違う形状をしているように思いますが?
歯車の形状を全て曲線で構成しているというのが大きな特徴です。というのも、糸のこで加工しますので、あまり角が立っていない方が加工しやすいのです。また、この形状の方が回る時に滑らかなので、その点を基本に作っています。図面にする場合、最初に丸を書き、そこから曲線でつないでいくとこういう形になるのですが、これは、僕が手仕事で糸のこでひく時にきれいな曲線が切れるようにということを念頭に置いた設計です。大量生産を狙って機械で加工しようとするとかえって難しい図形になっていると思います。
― この細かい歯車を全てお一人で切って作っているということですね。
そうです。手作業とはいえ狂いがあっては困ります。0.5ミリも狂うとアウトだと思っているので、±0.2ミリくらいが許容できる誤差の範囲といえるでしょう。0.3ミリシャープペンシルを使って製図していますが、その線の中と外を取り違えて切ってしまっても狂いが生じてしまいます。「製図の線の外側だけを切る」と決めてきちっと切っています。しかも、一筆書きで歯車を切り抜いていくので、なるべくじっくり時間をかけて、丁寧に切っています。
― 一組切るのに、どのくらい時間がかかるのでしょうか。
一組ずつ作っているわけではありませんが、一組分となると、4~50分くらいはかかっていると思います。なかなか集中力の維持も大変ですが、少しでも良いものをお届けするために頑張って作っています。
― あなたにとっておもちゃとは何ですか?
始まりは自分を表現するためのものだったのですが、最近は、「こんなのあったら嬉しいな」というお客様の期待に応えるたり、買ってくれた人が喜んでもらえるようなものを、と心がけて作るようになりました。そういう意味では、人を喜ばせるためのツールというか、道具というか、道具にとどまらず、一生大事にしてもらえるものだといいなと思っています。

PRODUCTS