5年間の保育士生活を経て、
おもちゃの作り手となった中村隆志氏の工房。
「おもちゃ」を通じて
「遊びに関わる様々なできごと」
意識しながらひとつひとつ丁寧に制作しています。

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INTERVIEW

中村 隆志 Takashi Nakamura
― 中村さんは、おもちゃ作家を目指す前は、子育て支援施設で保育士さんをされていたのですね。どのような経緯があって、おもちゃ作家に転身されたのでしょうか。
僕は、もともと木工をやっていたわけではなく、保育士になってからも特に趣味が木工であったというわけではないんです。
子どもたちと遊んでいる中で「こんなおもちゃを作ってあげたいな」という気持ちが起きて、段ボールや、牛乳パックとか、厚紙とか、そういうものでおままごとの道具をはじめとするおもちゃを作って一緒に遊んでたというのが、最初のものづくりとしての始まりなんです。
― 初めは、身の回りにある素材からおもちゃ作りを始められ、そこから、木という素材にシフトしたきっかけはありますか。
そのころ、既製品の木のおもちゃも取り入れようという話になって、木のおもちゃ選びの担当になったんです。その時に初めて木のおもちゃという世界があるんだなっていうのを知りました。
購入したおもちゃで子どもたちが遊んでいる様子を見て、自分が段ボールとかで作ってあげてたおもちゃで遊んでいる子どもたちの様子がリンクして、自分も木のおもちゃをちょっと作ってみたいなと思ったのが、きっかけです。
― そのあたりからおもちゃ作家への道というものが見えてきたのですね。いきなり木のおもちゃを作ることは難しいと思いますが、どこかで木工のお勉強はされたのですか。
はい。5年間保育士をやった後に、長野県の上松技術専門校という職業訓練校に1年行って、基本的なことを学んで帰ってきました。
― 今回、KItoTEtoシリーズでリリースした積み木ですが、どのようなところから着想を得て生まれたのでしょうか。
以前から、同じ形で構成されていながら組み合わせによって、積み方とか遊び方が発展していく積み木の面白さに目覚め始めていました。そんなことを考えている時に、東京おもちゃ美術館の「木のおもちゃ20作家展」という企画展示に出展させていただく機会がありました。その企画展の中の特集で、「積み木コラボレーション」という企画がありまして、縦、横、何センチという規定の中で、出展しているおもちゃ作家さんが積み木作りにチャレンジするというものでした。ちょうどいい機会なので、これをきっかけにその気持ちを形にしてみようと思って作りました。
― 「H-CUBE」についてお聞かせください。
基本的にはただの立方体なのですが、辺と角に大きく面を取ってあります。そのことによって、面同士で斜めにも積んだり、角同士を合わせれば縦にも積んでいけるようになります。積んでるうちに、「あっ、ここでも積めるな、ここでも積めるな」という発見があることが楽しくなるようにデザインしたものです。
― 「ROPPOU」 の方はいかがですか。
積むだけではなく、組むことによって、縦、横、前後にも、遊び方が発展していきます。「H-CUBE」と同じように、遊び方に気づいていきながら、楽しめるものになっていけばと思っています。
― 二つとも、遊び手の想像の余地をうまく残しているところがいいですね。気がつくと、大人のほうが夢中になって遊んでいるシーンを良く見かけるのですが、そこも狙いの1つとしてあったのでしょうか。
そうですね。大人が楽しんでると、子どもも何を楽しそうにしているのか気になって寄ってきます。その延長で、一緒に遊ぶという雰囲気や風景が出来上がったら素敵だなと思っています。
― 中村さんがKItoTEtoでリリースしているおもちゃで材料についての特徴を教えてください。
今回使っている材は、スノービーチという、新潟県産のブナ材です。僕の感覚だけなのかもしれませんが、スノービーチは、繊維がより複雑に絡み合ってる感じがして、ちょっと製材しにくい部分はあるのですが、やすりで丁寧に磨いていくと、すごいつやつやしてしっとりして、僕はわりと好きな材です。
単に材料として使うだけでなく、伐採の場や、製材所での製材時にも立ち合うようにしています。
おもちゃを作っている時に、伐採していた時の風景とか、切ってくれた人の顔とか、製材場の方のご苦労とか、そういったものを思い浮かべながら作業しています。
― 中村さんにとって、おもちゃとは何でしょうか。
おもちゃとは、過去、現在、未来をつなぐタイムカプセルだと思っています。
人の記憶って、良くも悪くもだんだん薄れていくものだと思うのですが、何かのきっかけで、ふと思い出すこともあると思うんです。
たとえば、遊んでいたおもちゃが20年後ぐらいに押し入れの奥から出てきた時に「これでいっぱい遊んだんだよな」とか「これで遊んだ時、お母さんやお父さんがすごいほめてくれたな」とか「おじいちゃん、おばあちゃんもすごい可愛がってくれたな」というふうに…。
僕のおもちゃをきっかけに、大人になってからも子どもの時のことを思い出してもらえたら嬉しいです。

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