1959年創業。
日本三大美林である秋田杉を使用した
伝統工芸品「大館曲げわっぱ」を
製造、販売しています。
百年先を見つめた木を育てる取り組みと共に、
伝統と技術を継承し続けています。

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INTERVIEW

福岡 由光 Yoshimitsu Fukuoka
― 大館工芸社さんは、どのぐらいの歴史のある会社なのでしょうか。
わが社は、昭和34年(1959年)の創業となります。
もともとは、「お杉わらべ」という郷土玩具やお酒を飲む「枡」といったお土産品、民芸品の製造からスタートしています。
秋田杉を原材料として使ってる上で、地元に根付いていた曲げわっぱ製造という技術を先代の社長が取り入れて、現在では曲げわっぱの製造メーカーとなっています。
― 営業企画部長の福岡さんは、大館工芸社にお勤めになってどのくらいになりますか。
地元の工業高校を卒業して以来大館工芸社一筋ですので、かれこれ30年以上になります。
― 勤続30年の大ベテランですね。新入社員の時は、どのような仕事からスタートされたのでしょうか。
曲げ物の蓋の角の丸め…いわゆる製品の顔に相当する部分の仕上げ作業を3年くらい、ずっとこつこつとやっておりました。
― 新入社員であれば、誰でもその作業から入るということなのでしょうか。
いえ、たくさんある作業のうちの、たまたま空きがあった一つの工程に配属されたということになります。
― 「石の上にも三年」という例えにもあるように、3年間一つの作業を続けることで、その作業に関してはエキスパートになられたのでしょうか。
そうですね。作業の面白みを感じるまでにはかなりの時間を要しましたが、3年続けることによって、「自分が商品の顔を作っているのだ」という使命感が芽生えました。
私の蓋の角の丸め方で、商品が柔らかくも固く見えるということに気づいてからは、ものすごくやりがいを感じ、この道のプロになろうと決意した瞬間でもありました。
― その工程を3年ご担当された後は、また違う工程の担当ということになっていったんでしょうか。
はい。4~5年目になると、部下が数名つくリーダーとなり、「指物」という、四角い箱物を作る作業を任せられました。
― 20代前半で、現場リーダーに抜擢されたのですね。
そうです。
― 「曲げわっぱ」という製品のお話しを伺っておりますが、曲げわっぱというのは、簡単にいうとどういうような製品になりますでしょうか。
杉を薄い板にして、それをお湯で煮沸して柔らかくして人の力で曲げて輪を作る。この輪になったものに、底板をはめて器を作る。これが曲げわっぱというものになります。小判型のお弁当箱が、曲げ物としてみなさん馴染みのあるな曲げわっぱ製品ではないでしょうか。
― 曲げわっぱは、大館市の伝統工芸品という位置づけでしょうか。
「大館曲げわっぱ」は、もちろん秋田県の伝統工芸品ではありますけども、国の伝統的工芸品にも指定(財団法人 伝統的工芸品産業振興協会によって経済産業大臣指定伝統的工芸品に指定)される工芸品となっています。
― どのくらいの歴史がありますでしょうか。
曲げわっぱが盛んになったのは、江戸時代(約450年前)あたりですが、約1千年前の埋没家屋から曲げわっぱが出土しているので、古くはそのあたりが起源ということになると思います。
― この大館市という土地でのモノづくりの特色はありますでしょうか。
この辺りは、元々は林業がとても盛んな土地でした。
秋田杉の資源がいっぱいあり、製材所も昔は数多くありました。さらには、鉱業の町でもありましたので、鉱山にも木材を供給したという流れから、木材産業が盛んになり、そこで曲げわっぱの製造が始まったんではないかと思っています。(山で何日も仕事をする人が携帯するお弁当箱として、曲げわっぱが使われていた)
― 今「秋田杉」がお話しの中に出てきました。「日本三大美林(青森ヒバ・秋田杉・木曽ひのき)」にあげられるほど有名で、あまり木に詳しくない人でも「秋田杉」という単語だけは聞いたことがあるのではないかと思います。その特徴はどのようなものでしょうか。
杉は全国各地にありますが、他県の杉と明らかに違うのは、木目の細かさと色味の違い、さらにはものすごい柔軟性を兼ね備えているという点です。
曲げわっぱに使っても良し、建築材に使っても良しという、とにかく優れた材料です。
その香りも非常に素晴らしく、秋田杉の優れた特色の1つに挙げられます。
― 確かに、このショールームで並んでる秋田杉の製品の数々を拝見していると、木目が非常に緻密で、絵に描いたようにまっすぐで、本当にこれが天然の素材なのかと驚くものばかりです。曲げわっぱという製品は、一本の秋田杉からたくさん作れるものなんでしょうか。
いえ、決してそうではありません。まず最初に材料の吟味から始めます。実際、丸太一本見た時に、外側の白い部分と中心の部分合わせて4~50%くらいは、問答無用で曲げわっぱには使えない(向かない)部分となってしまいます。そこを除いた残りの50%の中から更に吟味を重ねて選りすぐりの部分だけを使って製造しています。
― 丸太の半分を問答無用で使わないということは、樹齢の若い細い木ではまず製品づくりは無理だということになりますね。曲げわっぱ製品の材料に使うためには、どれぐらいの樹齢の秋田杉が必要なのでしょうか。
我々が使えないといっている部分というのは、樹齢にすると直近の約40年から50年のところということになります。ということは、私らが使いたい材料は、大体100年から120年の間の木、それくらいのものでなければ曲げわっぱを作る材料としては成立しません。
つまり、樹齢100年の中の50年目以降の部分がようやく材料になり得るのです。
欲を言えば、160年くらいあればいうことはないのですが…。
― 樹齢100年以上の立派な材から、ともすれば半分以上を取り除いてしまうことになるような厳格な材料の吟味があり、人が長く大事に使いたくなるような伝統工芸品になっていくのだということが良く分かりました。
そういった伝統工芸品を長くお作りになってらっしゃる大館工芸社さんが、この度KItoTEtoシリーズに積み木作りにチャレンジしていただくことになりました。
曲げわっぱの老舗製造メーカーがおもちゃづくりに乗り出すことになった経緯について、お聞かせください。
曲げわっぱとして適さない約50年分の材料の有効活用ということもありますが、まずは秋田杉の良さを見るだけではなく手や肌で感じてもらいたい。特に小さい子どもたちに感じてもらいたいというのが大きなきっかけです。
― 今回の積み木づくりでご苦労された部分などはありましたでしょうか。
当初は割と簡単に考えていたのですが、実際にやってみると、積み木ならではの精度を出すという部分に苦心しました。
6段重ねの積み木になっていますので、すべてを同じ寸法や厚さに仕上げないと、ひとつあたり1~2ミリの誤差があれば、6段で6倍の誤差が出てしまいます。
そこが一番気になりましたので、積み上げた時には、全部が平らになるように、同じ寸法、同じ長さになるように仕上げなければならないといいうところが、一番大変でしたね。
― この積み木のサイズ感には何か秘密はありますでしょうか。
我々が普段製造に使用している厚みで部材をつくるようになっています。たとえば、今回の積み木のためだけに特別な寸法の材料を用意しなければならなくなってしまうと、製造コストの面で大きな影響が出てしまいます。なるべく通常の生産ラインに影響のないような流れの製造をするということから厚みのサイズは決定しました。
― 他に、気を付けられた部分はありますでしょうか。
下は0歳の赤ちゃんから、いわゆる子どもたち全般が遊ぶ対象かなと思っています。その子どもたちを対象につくる上で、ささくれなどで絶対にけがをするようなことのないように、丸みを持たせたいという部分には、特に気を遣いました。
― 杉は結構柔らかいですから、仕上がりが雑だとささくれに出会うことがよくあります。しかしながら、この「百年杉の森の積み木」に関しては、一切そういうものが見当たりません。やはりそういったところは大館工芸社さんならではの、定評のある製品作りによってクオリティが維持されているということになるのでしょうね。
ありがとうございます。
― 大館工芸社さんの今後のものづくりの展望について、お聞かせください。
100年の杉材を使用して…という部分ですが、実際には杉はいつまでも豊富にあるわけではなく、いずれ枯渇してしまう可能性があります。
やはり材料である資源、杉を育てなきゃならないということで、今年からわが社では、150年の先に向けた秋田杉の植林事業を始めました。
― 今年から150年先を見据えた植林というと、今植えても材料として使えるのは、ずっと先ということになりますね。
そうですね。私も社長も多分いないと思いますけども、でも、それを始めなければ、150年の杉は残ってないということですよね。
― 何か、気の遠くなるような話ですね。
そうですね。やはり、我が社は地元秋田の杉にこだわったものづくり、その材料を使ってお客様に幸せをお届けするということが使命と思っております。
― 福岡さんにとって、おもちゃとはどんな存在でしょうか。
遊ぶことによって、手先が器用になる。そういった行為の積み重ねで、人間的に大きくなっていけるものではないかと思います。
とにかく杉の木を使った、喜んでもらえるおもちゃづくりに一生懸命取り組んでいきたいなと思っています。

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